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アルミ切削加工の基礎知識|材質特徴や合金の種類・切削の注意点を解説

アルミは加工しやすい金属で、切削にはアルミ合金が用いられます。優れた特徴を多く持つため、金属素材としての用途は多種多様です。ただし、切削加工をする際には、アルミの特性がマイナスに働く場合もあります。

今回はアルミ切削加工の基礎知識として、アルミとはどんな金属か、アルミの材質特徴、アルミ合金の種類や用途、切削加工時の注意点について詳しく解説します。

アルミとは

アルミは「アルミニウム」という非鉄金属の略称で、原子記号はAlです。1円硬貨や窓のサッシ、飲料缶、自動車部品など幅広く使われています。鉄や銅と並んで私たちの生活に欠かせない金属です。

ほかの主要金属と比べてアルミの歴史は浅く、アルミニウム製錬(最初は化学還元法)が始まったのは1855年です。日本では1934年にアルミの精錬が開始されました。それから約60年後の1996年には、国内のアルミ総需要量が400万トンを超えています。アルミが有用な金属素材として広く、急速に浸透したことがうかがえます。

アルミの原料はボーキサイトです。ボーキサイトは赤褐色の鉱石で酸化アルミニウムを多く含んでいます。ボーキサイトから酸化アルミニウムを取り出し、それを電気分解することによってアルミニウムが得られます。

アルミの材質特徴

さまざまな分野でアルミが利用されているのは、その扱いやすさと加工のしやすさのためです。また、特殊な用途に応用しやすい特徴も多く持っています。ここでは、アルミの特徴を大きく3つに分類して、それぞれの要素を詳しく説明します。

扱いやすい特徴

・軽い(比重が小さい)

アルミの比重は2.7で、一般的な金属素材の中ではマグネシウム(1.7)に次いで2番目に軽い金属です。鉄(7.9)や銅(8.9)の3分の1程度であるため、アルミを用いれば製品の軽量化に役立ちます。

・コストパフォーマンスが良い

アルミは流通量が多く、金属全体で見れば比較的安価な素材です。加工性にも優れるため、加工費用も抑えやすいメリットがあります。

・毒性がほとんどない

アルミニウムを含有する食品添加物の使用を厚生労働省が認めていることからも、人体への悪影響が起こりにくい金属です。

・リサイクル性が高い

ほかの金属よりリサイクルコストが安くすみます。製造エネルギー比でいえば、鉄鋼が約40%、銅が約16%であるのに対し、アルミはわずか5%ほどです。

※製造エネルギー比:原料から生産するときのエネルギーに対するリサイクルに必要なエネルギーの割合

加工しやすい特徴

・切削加工しやすい

アルミ合金の被削性指数率は240~140で、銅合金(100~70)や鋼(85~50)、鋳鉄(90~50)などの主要金属材に比べると削りやすい金属です。
※被削性指数率:切削のしにくさを表す指標で、値が大きいほど切削しやすい

・塑性加工しやすい

金属に圧力をかけて成形する塑性加工においては、n値(加工硬化指数)が重要です。アルミ合金は調質によってn値の異なるものが作れるため、塑性加工に適したアルミ材を選択できます。

・鋳造しやすい

アルミは融点が低いので溶かしやすい金属です。湯流れがよく、複雑形状の鋳物を製作するのに適しています。アルミ溶湯は表面が酸化皮膜で覆われてガスを吸収しにくいのですが、水素だけは溶け込む可能性があるため脱ガス処理が必要です。

・接合しやすい

融点が低いアルミは、溶接、ろう付け、はんだ付けなどの接合加工が容易です。ただし、アルミと鉄を接合するような異種金属同士の溶接だと難しくなります。それぞれの特性が違うため、強度や耐久性、仕上がりの良さを保持するには高い技術が要求されます。

応用しやすい特徴

・耐食性が高い

アルミは空気中で表面に酸化皮膜をつくる特性があり、腐食やサビの発生を抑えられます。風雨にさらされる自動車や船舶、あるいは建築物などにも役立つ特性です。

・非磁性体である

磁気を持たないため、磁場の影響を受けやすい精密機器の部品素材として最適です。メカトロニクス分野や先端医療分野などでアルミが活用されています。

・高い強度を持たせられる

アルミは柔らかいイメージがありますが、もともと比強度(単位重量あたりの強度)の高い金属です。ほかの金属と混ぜて合金化したり、熱処理を施したりすることで、高い強度が得られます。

・導電体として利用できる

アルミも電気をよく通す金属です。導線に最も使われている銅の導電率を100とするとアルミは63ですが、銅の3分の1程度の軽さであるため、同一重量で換算すればアルミのほうが約2倍の電気を流せます。

・熱伝導率が大きい

銅や銀ほどではありませんが、アルミは熱を伝えやすい特徴を持ちます。アルミの熱伝導率は真鍮の約2倍、鉄やステンレスの約3倍です。

・反射性に優れる

多くの金属が光や熱を反射しますが、鏡面研磨されたアルミの反射率は非常に高くなります。700nm以上の波長で80%、1100nmからは90%以上です。アルミは熱エネルギーの大きい赤外線領域(780nm~100000nm(100μm))をよく反射するため、熱反射性に特に優れています。

・極低温環境でも利用できる

鉄鋼のほとんどは、0℃未満の低温環境下では脆くなって破損する恐れがあります。一方、アルミには低温脆性(ていおんぜいせい)がなく、液体窒素(-196℃)や液体ヘリウム(-269℃)の容器素材として使用可能です。

アルミの合金種類

純度の高いアルミは製品強度を保てない場合が多いため、切削加工の主な材料はアルミ合金です。アルミ素材は「A1100」のように、アルファベットのAに4桁の数字を付した「番手」で分類されます。ここでは、番手と化合物、特徴を含めてアルミ合金の種類を紹介します。

・A1000番台

化合物のない純度99.0%以上のアルミで、この番手だけ合金ではありません。導電性や熱伝導性、耐食性に優れますが、強度に難があります。粘性もあるため精密な切削加工には不向きです。

・A2000番台

アルミに銅を添加して強度を補い、切削性も改善した合金です。A2017はジュラルミン、A2024は超ジュラルミンとも呼ばれます。酸化しやすい銅を含むため、耐食性は高くありません。

・A3000番台

マンガンを化合し、耐食性を保ちながら強度を高めている番手です。切削加工ではあまり使われませんが、アルミ缶や建築用材などの用途があります。

・A4000番台

アルミにケイ素(シリコン)を混ぜて、耐摩耗性や耐熱性を向上させています。熱膨張に強いのも特徴です。基本的に切削加工には用いません。

・A5000番台

マグネシウムを加えたアルミ合金です。アルミ切削加工では採用頻度の高い番手で、加工性に優れます。強度や耐食性も高く、溶接にも向いています。

・A6000番台

マグネシウムとケイ素を添加し、A5000番台より強度と耐食性を強化しています。5000番台には圧延などの非熱処理、6000番台には焼入れや焼戻しなどの熱処理を施します。

・A7000番台

アルミに亜鉛とマグネシウムを化合させ、熱処理を加えた合金です。この番手の代表格であるA7075は「超々ジュラルミン」と呼ばれ、アルミ合金の中では最高強度を誇ります。

アルミ材質を選ぶ理由

切削加工において、アルミ合金はポピュラーな素材です。アルミの特性が切削する際のメリットにつながるためです。以下、アルミ材質を選ぶ理由となるメリットについて説明します。

加工時間を短縮できる

アルミ合金は全般的に加工しやすいのが特徴です。加工のしやすさは作業のミスを減らし、余計な工数がかかりません。複雑な形状の切削も短時間でおこなえます。

美しく仕上げられる

反射率の高いアルミ材質は表面の光沢が美しく、製品の見た目が映えます。外装部品などでは色付けの表面処理や装飾メッキを施すケースもあります。

製品の差別化が図れる

軽くて丈夫な製品を作るならアルミ材質が最適です。小型化を目指すときにも精密加工のしやすさはメリットになりえます。耐食性や放熱性などの機能を持たせたい場合にも、アルミ素材を選べば解決します。

アルミ材質の利用される用途

アルミは素材特性に優れるため、あらゆる製品や部品に使われています。代表的なものだけでも、以下に紹介するように多くの用途があります。

・自動車

加工のしやすさと強度が両立できるアルミ材質は、自動車部品の多くに採用されています。耐食性が高いため、車両のサビや腐食も防ぎます。

・航空機

飛行機が安全に空を飛ぶためには丈夫で軽い金属が必要です。特にジュラルミン/超ジュラルミン/超々ジュラルミンは航空機用材に適しています。

・新幹線

地上を高速移動する新幹線も軽量化が重要です。1992年の300系から、新幹線の車両素材にアルミ合金が使用されています。

・スマホやタブレット

「持ち運びしやすい軽さ」「衝撃から精密機器を守る頑丈さ」「放熱性の高さ」といった、携帯端末に求められる素材特性をアルミ合金は兼ね備えています。

・ロケット

ロケットは軽量であるとともに、発射の際に機体にかかる空気抵抗や摩擦熱にも耐えなければなりません。外装から内部の燃料タンクに至るまで、ほぼアルミ合金製です。

・LNGタンク

LNG(液化天然ガス)は-162℃の温度を保ったまま船で輸送されます。その貯蔵タンクには、低温脆性の心配がなく耐食性も高いアルミ合金が使われています。

・飲料缶

軽くて丈夫であること、熱伝導率が高いために効率よく冷やせることなどから、アルミは飲料缶にも用いられます。毒性の低さやリサイクル性の高さからもアルミ缶は有用です。

・建築物

耐食性や不燃性があることから、建築用材にもアルミが多用されています。アルミ材質の反射率の高さは、夏場に太陽光の熱で建物が温まるのを防ぎます。

・食品

ベーキングパウダーやプロセスチーズ、ピクルスなどの食品添加物としてアルミ化合物が使われます。もともとアルミは自然界に存在し、海草類や貝類、大豆、ごまなどに多く含まれている物質で無害です。また、スナック菓子や冷凍食品のパッケージとしても利用されています。

・医薬品

医薬品包装には高い安全性と品質管理が求められます。劣化しにくく、無味・無臭で無害なアルミ箔は、医薬品の包装に適した素材です。

アルミ切削の注意点

アルミは比較的加工しやすい金属ですが、切削する際にはいくつか問題点もあります。しかし、アルミ合金の特性を把握していれば対処法も理解しやすいでしょう。ここでは、アルミ切削の注意点と対応のしかたについて解説します。

切粉

アルミを切削加工すると切粉が大量に出ます。これがチップ状や粉状になって加工品の表面を傷つけたり、切削工具に溶着したりします。対応のしかたは2つあり、1つはエアブローを使って切粉を除去すること、もう1つは切削油を用いて切粉を浮かせることです。

寸法変化

アルミ合金は金属素材の中では線膨張係数が高く、熱によって膨張しやすいのが特徴です。切削加工時の熱により寸法が変わってしまう場合があります。切削油の使用により温度上昇をある程度は抑えられます。

変形

薄い製品形状の切削加工をおこなうと、歪みや反りといった変形が起こりえます。これは加工時の熱や残留応力が原因です。加工時の応力を減らす工夫をしたり、余肉をつけたままの粗加工を1回はさんだり、冷却能力が高い水性切削油を用いたりして、変形が起こらないように対策します。

アルミの材質特徴や合金種類を知って切削加工に役立てよう

アルミは私たちの日常生活だけでなく、最先端の科学技術にも欠かせない金属です。ほかの主要金属よりも歴史が浅いにも関わらず、「扱いやすさ」「加工のしやすさ」「応用のしやすさ」といった素材特性により、あらゆる分野でアルミが活用されています。

現代のアルミ素材の主流は、別の物質と化合させて欠点を補ったアルミ合金です。合金によって強度や切削性を高めたおかげで、より加工がしやすくなります。

アルミ合金の種類は多岐にわたり、用途に応じて使い分けがなされています。例えばジュラルミンは航空機素材として有名です。切削加工では、マグネシウムを化合させたA5000番台のアルミ合金がよく用いられます。

アルミ切削時には、切粉や寸法変化、変形に注意することが重要です。アルミの特性を知って対策をおこなえば、問題なく綺麗に仕上げられます。

小林製作所ではアルミ加工品に長年の実績とノウハウがあります。お気軽にご相談ください。